「端渓」「端渓硯」または「端硯」とは、広東省広州肇慶市の端州全体で産出される硯の総称です。
端渓には大きく分けて2カ所の硯石採掘エリアがあります。それが、斧柯山一帯つまり端渓渓谷と、西江を挟んで北に位置するペーリン(北嶺)山脈一帯です。
端渓渓谷一帯で産出される硯は、日本では一般的に「端渓硯」と呼ばれています。採掘は唐時代に始まり、清時代に掘り進められた老抗からはたくさんの名硯が生産されました。
ペーリン山脈一帯の硯は日本では「端石硯」として端渓硯と区別されています。宋時代に開発された宋坑からは、端渓硯に比べてお値打ちな端石硯がたくさん産出されて、日本に持ち込まれました。
端渓渓谷一帯の抗から産出される端渓硯は、馬肝色であることや適度な大きさの鋭い鋒鋩が多数立っているのが特徴です。石紋や火捺などの斑紋が現れたり、地層に含まれる石蓮虫の化石によって石眼が見られるのも端渓硯特有の特徴です。こうした模様の入った端渓硯は最高級品とされ高値で売買されています。
ペーリン山脈一帯で産出される硯は見た目の華やかさはありませんが、端硯特有の馬肝色の石色で、鋭く立つ鋒鋩が見られる優れた硯です。
ペーリンの宋坑や白綫巌からは、端渓渓谷の老坑硯の石質に劣らない上質な石が産出されています。端渓硯と同じような馬肝色の石も採掘されるため、安価な「端渓硯の偽物」が多く生産されました。
「端渓硯」と「端石硯」には鋒鋩の立ち方などの共通点もありますが、値段や見栄えにおいては大きな開きがあります。このうち、両者の値段の違いにつながる原因として原石の採掘方法の違いが挙げられます。
端渓硯の老坑からは、西江の増水による坑の水没期の合間をぬって少量ながら非常に上質な原石を採掘できました。ここでは、熟練した石工職人が鉱脈を探しながら一打ちずつノミで手掘りして、優れた原石を丁寧に掘り出します。それを坑外に搬出すると、より厳密に選別され、合格した原石だけが硯石として使用されるのです。老坑以外の坑で小規模な発破を起こして原石を掘り出しているのとは対照的です。
1998年に老坑で原石盗難事件が発生し、老坑の採掘は停止されました。その後採掘を再開しましたが、過剰在庫の調整や天然資源保全などの理由で、老坑をはじめとする各坑の強制閉鎖が実施されました。現在では遺構はテーマパークに姿を変えており、硯石の産出ができない状態になっています。
ペーリンでは宋坑だけが2000年過ぎまで採掘を継続していましたが、現在では周辺地区の都市化が進み、宋坑も閉鎖されました。
端渓の硯は唐硯の代表として高い評価を得ながらも、巷で噂されたような鉱脈の枯渇ではなく、物理的理由から端硯の産出ができなくなりました。今後もこの状態が続くと、端硯の価格が高騰する可能性もあります。
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